結婚とは 四

結婚とは 四

別れ際 里子にネックレスをかけ

てくれた

「これね お母さんが大事にしていたの」

「少しずつお金をためて、自分で 買ったの  」

髪をたくし上げ、まだ産毛が残る首にかけてくれた

ピンクゴールドで0.2カラット

ひし形

「似合うね、里子がお嫁に行くときも

つけてね きっと幸運のネックレスになるよ 」

母はこれでもかこれでもかと

頬をさすって、泣いていた

 

母のいとおしくさすってくれた

ぬくもりが今も忘れられない

今その母の思いが

生きる勇気となり

力となっていることを

感じた

 

母のように不幸だった人が最大に幸福になる権利がある

と里子は思う

 

外に白い蝶が 飛んでいった

抗がん剤で髪がぬけ すこし若くなったみたい

雅夫はベッドのふちに座って そっと手をさしいれ、里子の手を 握り締めた

小学校の先生 定時制高校を卒業して

夜間の大学で教職課程をとり 教員免許をとった 定年まであと五年 定年後

里子と一緒に 旅行し、房総半島の外房で 家を購入し、ゆっくりと 老後を楽しみたい と思っていた

 

里子が精密検査を受けた日のことを 思い出した

医師から乳癌であること 四段階の内のステージ三で 脇のリンパ腺もはれている

最悪は全身に転移しているかも しれない 摘出手術を急ぐ必要があること

しかし里子は 体が弱く耐えられるか心配であった

その後抗がん剤投薬とエックス線 治療を行ったが 痛みに耐えかねて治療をとめた

 

担当医師は

 

肺のレントゲン写真を見せながら

説明した

「肺胞にも胸骨や肋骨にも

癌が転移しています  」

「こんなに早く転移するとは

思いませんでした

 

「ただ今は痛みに抑えることしか

できません   」

 

 

そして医師は重く言葉をはいた

 

「心肺機能が停止しても再生治療は

行いません  」

 

もうなすすべがないのか

医師はベストを尽くしたので

あろうか

 

痛み止めの治療が始まって五日後 医師からあと三日の命と 告げられた

里子は 「何か言われたの  」 と微笑みながら ベッドで私に聞いてきた

私はすぐ返答できなかった 三日後 この残酷な言葉を告げられるのか ふと

雅夫は天井を見ながら息を吐き出した

 

自らの命が擦り切れる思いで

 

三日の命と言われた事を告げた

 

里子は

 

「もっと生きます、正月を家で迎えるの 」

 

力強い言葉で答えた

三日過ぎても里子は生きていた

生き抜いていた

緊急病室に移っても見舞いに来た友人には

悩みがある友には

励ましを送っていた

しかしもう食事もとれなくなり

トイレにも自分で行けなくなった