結婚とは 五
雅夫は里子と一緒に過ごした日々を思い出していた
長女として母を支え、苦労して来た
女としては30%
妻としても50%ぐらい
しかし伴侶としては100%の点数をあげられる
もう空気みたいな存在であった
里子は中学卒である
卒業してすぐ働きに出た
喫茶店のウェイトレス
電機工場の工員など
職業をいろいろ変えたが
希望を失う事はなかった
母から 「苦労すれば人の気持ちがわかる人間になるから
耐えて生き抜くのよ !」
と言われていた
だからこそ子供が育ってから夜間の高校にも行き
今年卒業して
大学の通教生になったばかりであった
昨日も隣の病室の70歳代の男の人が亡くなった
苦労して財を成したのであろう
酸素マスクをつけた状態であった
ベッドの回りを子供達と親戚が囲み、いよいよ臨終の時を迎えていた時
突然娘らしき人が
「おじいちゃん遺言書いてよ 」と大声で叫んでいた
ほかの婦人がもう駄目よとなげやりに言い放った
死に向かいこの老人の悲しみはいかばかりか
灯をともすような生活をして遺した財産を兄弟達が争う
人間の醜さを見、死の瞬間まで悩ますのは一体何なのか
里子も臨終の時を迎えるあたり
子供と夫にメッセージを残そうと思った